スイスのスタートアップTerra Quantumがグラファイトを用いた室温超伝導体の発見を報告

masapoco
投稿日
2024年1月29日 6:54
graphite

毎年のように“室温超伝導体”を発見したとの報告があるが、人類は未だ実現には至っていない。超伝導体は抵抗なく電気を伝えることができるが、現在これは絶対零度に近い温度でしか実現しておらず、もしこれが室温で可能になるのならば、まさしく世界がひっくり返るような衝撃が与えられるだろう。

そしてまた新たに、スイスの量子スタートアップのTerra Quantum社とブラジルのカンピナス州立大学の研究者らが、常温常圧で超伝導を起こすグラファイトを発見したと発表しているのだ。

グラファイトは鉛筆の筆記部分を構成する物質だ。非常に一般的な物でありふれた物ではあるが、グラファイトの一種であるグラフェンと呼ばれる単層グラファイトは、興味深い特性を持つ奇跡の材料として多くの研究が行われている。

グラフェンは、入手することが長い間非常に困難で、そのため長年この分野の研究が進まなかった。だが2004年にセロハンテープ(スコッチテープ)にグラファイトのかけらを貼り付けて剥がすことでグラフェンを得られる事が判明し、そこから急速に研究が進んでいる。

この研究では、グラフェンではなく、高配向熱分解グラファイト(HOPG)に焦点を当てている。

HOPGはグラファイトの合成形態で、グラファイトの結晶子同士の角度が極めて小さくなるように整列している。これは、この材料が鉛筆から得られる以上の興味深い特性を持つために極めて重要である。

カンピーナス大学のYakov Kopelevich教授率いる研究チームは、HOPGにスコッチテープを使って薄いシートに劈開した。これらのシートは、ほぼ平行に並んだ高密度のしわで覆われていた。

クーパー対が形成されるのは、この材料のしわの部分だと研究チームは考えている。クーパー対とは、相互作用を開始した電子が結合してしまうペアのことで、超伝導を支える粒子である。超伝導物質では、臨界温度と呼ばれる特定の温度以下でこの現象が起こる。この研究の研究者たちは、臨界温度を正確に特定することはできなかったが、300ケルビン(27℃、80°F)の室温付近であった。

研究チームは、この物質の抵抗と磁化を測定したが、他の超伝導物質で見られる挙動と一致していた。臨界温度に特定の値を持たせることの重要性は、その閾値を超えた後、材料の変化が一貫して急激に起こることである。

熱容量だけでなく、超伝導をテストするには他の多くの方法があり、それらの証拠も集める必要があるだろう。室温・室圧で超伝導を示す物質ができれば、文明を変えるほどのブレークスルーとなるが、第三者機関による検証が待たれるところだ。

「現在、10~20 mKでしか動作しない量子ビットが室温で機能するようになるため、量子コンピューティングの新たな分野は大きな恩恵を受けるでしょう。このように、未来的な夢と見られていたことが現実となったのです」とTerra Quantum米国最高技術責任者Valerii Vinokur教授は述べている。


論文

参考文献

研究の要旨

通常の条件下での室温超伝導は、その発見以来、物理学と材料科学の主要な課題であった。ここでは、ほぼ平行な表面線欠陥が密に配列した劈開性高配向熱分解グラファイトで観測されたグローバルな室温超伝導について報告する。温度4.5K≤T≤300K、磁場0≤B≤9T、黒鉛基底面に垂直に印加した状態で常圧下で行った多端子測定から、超伝導臨界電流Ic(T, B)は常伝導状態抵抗RN(T, B)に支配され、Ic(T, B)は1/RN(T, B)に比例することが明らかになった。超伝導スクリーニングの磁化M(T, B)測定とヒステリシスループは、超伝導体-強磁性体-超伝導体のジョセフソン鎖に特徴的な温度による臨界電流の振動とともに、T>300Kでの超伝導の発生を強く支持している。また、線状構造欠陥の配列に現れる大域的超伝導の理論を構築し、実験結果をよく説明するとともに、大域的超伝導は、線状欠陥中の超伝導グラニュールの大域的な位相コヒーレンスとして生じ、三次元(3D)物質へのトンネル結合を介した下層のバーナルグラファイトの安定化効果によって促進されることを実証した。



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